岩波の同時代ライブラリーには面白い本が多い。これもその一冊だ。本の題名の通り、音を通じての小泉八雲論がとても新鮮だ。盲人の琵琶法師「耳なし芳一」についての本かと思ったら、そうでもない。子供の時に片目の視力を失い、もう一方の視力の低下を気にしていたこの作家が音に敏感であったこと、名作「怪談」などの再話物語の創作にあたって、小泉せつ夫人が読んで語った音によって日本の物語に触れていること、日本語を話すのにはほぼ不自由しなかったが書物を理解することは諦めていたことなどのエピソードが面白い。
「怪談」の中に出てくる「おしどり」についても言及されている。この短い物語は「古今著聞集」という原典があるそうだ。「ハーンの個人的なオブセッションでもあった「糾弾する女」の観念に具体的表現をあたえるため」に描かれた再話物語と西氏は書いている。「おしどり」についてはブログを書いているので、とりわけ面白く感じた。
西成彦氏と言えば気鋭のポーランド文学研究者だ。この人がラフカディオ・ハーンに興味を持ったのは熊本に住んでいたことがきっかけのようだ。その当時のパートナーだった詩人伊藤比呂美さんの詩の中にも小泉八雲とせつ夫人の出てくるものがある。比較文学者で映画評論家の四方田犬彦氏の「歳月の鉛」の中にも西氏は登場しているのが面白い。
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