新潮文庫に入っているこの本には9本の短編が収められている。冒頭の「旅する本」という物語がとても面白い。東京で一人暮らしをすることになって部屋も狭いし、飲み代にも困って他のものと一緒に一冊の文庫本を古本屋に売り払う。学生時代が終わるにあたって卒業旅行で出かけたネパールのポカラの安宿の近くの古本屋でその本に再会する。風変りな本でそういう本を読む人はネパールや60年代ヒッピー風の生活に憧れる傾向があると考えれば無理な話とも言い切れない。この人は雨に降られて宿にとどまっている暇つぶしもあってその文庫本を再読する。荷物を減らすためにその本をカトマンズで売り払う。
社会人になった主人公が仕事でアイルランドを旅している時にふらりと入った古本屋でその本にめぐり合う。現実味がないなあと主人公自身が述懐しながらこの人はその本を買い求め、パブでギネスを飲みながら飛ばし読みする。帰国途中のロンドンでその本を売ってしまおうと考える。それはこの次どこで出会うことになるのか興味があるからというのがこの不思議な短編の結末である。
この本の味わいはそれが現実がどうかにあるのではない。童話だと思えばすむことだし、あるいはそういう節目節目でその本の内容を思い出したことを書いたと思えばありそうな話だ。
社会人になった主人公が仕事でアイルランドを旅している時にふらりと入った古本屋でその本にめぐり合う。現実味がないなあと主人公自身が述懐しながらこの人はその本を買い求め、パブでギネスを飲みながら飛ばし読みする。帰国途中のロンドンでその本を売ってしまおうと考える。それはこの次どこで出会うことになるのか興味があるからというのがこの不思議な短編の結末である。
この本の味わいはそれが現実がどうかにあるのではない。童話だと思えばすむことだし、あるいはそういう節目節目でその本の内容を思い出したことを書いたと思えばありそうな話だ。
余談がある。去年の春、まだロンドンに住んでいた時に旅行中のOさんご夫妻が訪れてくれた。長いことご無沙汰だったキューガーデンズにご一緒したり、野生の鹿のいるリッチモンド公園にワンコも連れて行って散歩したりで楽しかった。お土産にいただいた日本酒を飲みながら、夜更けまで好きな本の話をしたときに登場したのが角田光代さんだった。都の西北にある大学の学生時代に学年が近かったのでご縁があるらしい。映画化された「紙の月」は宮沢りえ主演の映画も凄いが、原田知世主演のドラマ版も鬼気迫る感じがした。
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