2014年10月3日金曜日

大江健三郎「個人的な体験」

ノーベル文学賞の大江健三郎を好きだの嫌いだのいうのは照れくさい感じもするが、この人が「芽むしり、仔撃ち」、「奇妙な仕事」などで学生作家としてデビューし、その後次々と実験的な小説を発表していった頃の作品はとても過激なものだった。「われらの時代」、「性的人間」、「遅れて来た青年」など圧倒されたが、そこからどこへ向かうのだろうかという危なっかしい感じが強かった。

この作家は障害のある子供が生まれた前後の経験を「個人的な体験」という小説にする。本当に圧倒的な本だった。これを一つの転換点としてこの人の作風は変わる。「雨の木を聴く女たち」、「僕が本当に若かった頃」など静かな祈りをこめたとても力強い作品が年を経るごとに書かれていった。こういう作家の作品を初期から現在まで同時代の一人として体験できたことをとてもありがたく思う。



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