2016年11月25日金曜日

杉本えつ子「武士の娘」 越後長岡からニューヨークへ

NHK BSの「武士の娘」は田舎の旅館の玄関先を箒で掃き清めている小さな女の子が近所のいたずら小僧たちにからかわれて、立ち向かっていく場面から始まる。ヒロインである杉本えつ子氏がからかわれたのは2つの理由による。第1は縮れ毛のこと、第2は元越後長岡藩の筆頭家老だった父親が明治になってから腰抜け侍と揶揄されたこと。縮れ毛で男まさりではまともな嫁ぎ先は無いかもと気にしていたことが同女史の著書である「武士の娘」(ちくま文庫)の冒頭に書かれている。明治の越後長岡に生まれた女性の書いた本がニューヨークで出版され、Hemingway の「日はまた昇る」や、Fitzgerald の「グレイト・ギャツビー」と一緒にベストセラーになったことをこの番組を見るまで知らなかった。

このヒロインの兄は、親に勘当された状態で米国に飛び出しシンシナティで働いていた。兄の紹介で許嫁と結婚するために海を渡ることになるが、帰国し、ご主人とも死別し、故郷の母も亡くなった後で、再渡米したことと、それからの女史の生き方がすごい。シンシナティには戻るところもなくニューヨークにわたり、コロンビア大学で仕事を見つける。これも最初の渡米前に日本でみっちりと高等教育を受けているおかげだろうから、さすがに賊軍となった長岡藩とはいえ元ご家老の娘だ。面白そうな人なので、この番組にも登場している内田義雄という人の「えつ子 世界を魅了した「武士の娘」の生涯」という本をamazonで取り寄せてみた。

ヒロインの旧姓は稲垣で、父は長岡藩の筆頭家老の家柄だった。藩政改革を進めた河井継之助によってこの筆頭家老は閑職に追われる。その後河井継之助が官軍への徹底抗戦を主張したときに、勤皇と官軍への恭順を説き、戦になるとさっさと降伏した。それで地元での評判は悪かったらしい。戊辰戦争の負け戦で河井継之助を恨んだ人も多いので、歴史上の人物がどう評価されるかというのはわからない面がある。学生時代に京極純一先生の政治過程論の授業で紹介されていたルース・ベネディクトの「菊と刀」の中にも、「武士の娘」の中からのエピソードが紹介されている。そういう意味では学生時代に一度この郷里の大先輩に出会ったいたはずなのに、きちんと出会うまでにずいぶん時間がかかってしまった。

http://www.nhk.or.jp/docudocu/program/2443/2393055/