2016年2月20日土曜日

津島祐子 「黄金の夢の歌」 

ビシュケクの街の中心には騎馬に乗った英雄マナスの像が立っている。この英雄物語を伝承してきたマナスチと呼ばれる語り部たちがいる。2008年の夏の日だった。日本の家庭料理店「亘」でお昼を食べていると日本センタ―所長の浜野さんがお客さんを連れてやってきたのでご挨拶した。津島祐子さんと同行の出版社の人だった。取材旅行に来られたのだそうだ。2010年4月のキルギス政変のしばらく前のことだ。2010年の秋になって日本から送ってもらった新聞切り抜きに「黄金の夢の歌」の広告が載っていた。キルギスが舞台の本だろうかという期待でさっそく日本から取り寄せた。

津島さんがキルギスを訪れ、首都のビシュケクから西端のタラスまでの旅したことが第2章から第4章にかけて描かれている。マナス像が立っている場所にかつてはレーニン像があったことや、フェルト製のカルパック帽のこと、馬乳酒のこと、移動式の天幕のこと、8世紀のタラスの戦いのこと、伝説の英雄マナスの奥さんの名前がカニケイだったこと、玄奘三蔵法師のこと、キルギスの嫁さらいの風習のことなどが淡々と描かれている。キルギスに住んだ人にとっては懐かしい気持ちを呼びさましてくれる本だ。この美しい国を訪れたことにない人にはとても良質の旅の手引きになるだろう。

マナスのキルギス、この著者の父祖の地である青森、アイヌの北海道、さらにはアレキサンダー大王のマケドニアまで歌を手がかりにしてユーラシア大陸の各地に旅する物語だ
。評論家の柄谷行人がこの本についてコメントしているのをウェブで見つけた。「黄金の夢の歌」の中に頻繁に出てくる蹄の音と、太宰治の小説「トカトントン」の中に出てくる擬音とに関連があるのではないかという指摘だ。親子の絆ということになる。不思議な感じのする本だ。


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