2015年8月13日木曜日

村上春樹の初期作品2作の翻訳がロンドンで話題になっている

今月に複数の出版社から刊行された村上春樹の初期作品2作の翻訳が英紙ガ―ディアンなどで取り上げられている他、ロンドンの大型書店ウォーターストーンで派手な販売プロモーションが展開されている。日本では「風の歌を聴け」、「1973年のピンボール」、「羊をめぐる冒険」は初期3部作とされている、ガーディアン紙によると「羊をめぐる冒険」を村上春樹の処女作だと思っているファンが英語圏には多いそうだ。村上春樹自身が最初の2作を海外での英訳出版することに同意しなかったそうなので、英訳で読む機会がなかった人たちにとっては当然だ。

1979年の「風の歌を聴け」も1980年の「1973年のピンボール」も芥川賞候補になったが、その選考委員会で賛否が分かれ、批判する評者たちからは手厳しい評価がなされた。ウィキペディアなどでコメントの概要を知ることができる。1982年に発表された「羊をめぐる冒険」は最初の2作と様々な共通点があるので「三部作」とされているが、前2作が短い作品であるのに比べるとかなり書き込んだ長編小説だ。またその後の長編でも繰り返されている章ごとに2つの世界が交互に登場する構成もこの第三作で明確になっている。おそらく初期2作への批判に答える形で書き直したものが「羊をめぐる冒険」ということになるのだろう。村上春樹ファンにとっては初期の2作は記念碑的作品で習作などではない。2015年になってこの2作が世界のムラカミファンの注目を集めているというニュースは嬉しい。


「アメリカ現代文学の雰囲気がある」と評され、かなり簡潔な文体で書かれた「風の歌を聴け」を他言語に置き換えて、なおかつオリジナルの質感を保つのはかなり勇気のいる作業のはずだ。そういう困難を承知で英国のムラカミ・ファンに初期作品を読んでみたいと思わせるきっかけになったのは、今年5月の「海辺のカフカ」公演だったのではないかという気がする。「海辺のカフカ」はとても長い作品だ。作中人物の台詞の形をとりながら源氏物語やら、雨月物語やらについての論考が混じるかなり難解な小説でもある。その作品が蜷川版の舞台として上演された時に、原作の雰囲気がとても見事に表現されていて感動した。違う表現形態をとってもオリジナルの質感や空気感がきちんと伝わると言うことの例になるかもしれない。この舞台に魅了された人たちが村上春樹の初期作品を読みたいと思うのはとても自然なことだと思う。蜷川版「海辺のカフカ」公演については別にブログを書いている。

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