2015年10月12日月曜日

C.ダグラス・スミス 「憲法は政府に対する命令である」(平凡社ライブラリー)

学生生活を終えて実社会に出て36年になる。法学部の学生であったこととはあまり縁のない道を歩いてきたので、芦部先生のゼミに在籍していたことも遠い日の幻のような記憶だ。昨年の解釈改憲に始まった一連の議論がメディアを賑わすようになって以来、びっくりすることが多くなったので、否応なしに当時の大教室で習った憲法の講義の内容について考えるようになった。そうして様々な昨今の論説を読んでみると、自分の学生時代に常識だったはずのことが根底から覆るような議論が飛び交っていることで呆然とする。

正直に言うと反対してよいものやら、賛成してよいものやら分からなくなった。戦後のアメリカの憲法学の理論を日本に紹介されていた芦部先生から学んだことで今でも記憶しているのは「適正手続き(due process)」を尊重すべしとする考え方と、基本的な価値を否定する勢力に対して無力であってはいけないという「戦う民主主義」という概念だ。そういう基本を抑えた上で一つ一つの事がらについて丁寧な議論を経て解決の道を探っていくことしかできないような気がしている。メディアで飛び交っているのは賛成する側でも、反対する側でも結論ありきで、詳細についての詰めのない議論が多い。どちらの側にもあまり説得力を感じない。

そういう気持ちでいる時に出会った本だ。この本の著者を知ったのは去年の7月に平凡社の中学生の質問箱シリーズ「戦争するってどんなこと?」を高校同窓のI氏が推薦してくれたのがきっかけだった。哲学専攻で読書家のこの若い友人からは学ぶところが多かったので、この人がFBを離脱した時は残念だったが仕方がない。昨夏の中学生向けの本を読んで歯切れの良い問題設定の仕方に感心した。今週帰国して、書店に行って平凡社ライブラリーに入っているこの本を手に取ってみた。去年の本よりももっとわかり易い形で論点が整理されている。第四章「日本国憲法は、誰が誰に押しつけた憲法なのか」には脱帽した。この本の241頁から数頁にまとめられている「付録 憲法・安保・沖縄」には、昨年来の「どうやって国や人々を守るのか」という議論が2度にわたった大きな論争をまき起こしながら、結局うやむやになってしまう理由が明示されている。賛成する人も、反対する人も一度は読んでほしい気がする。



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