2015年6月9日火曜日

吉田健一 「英国に就て」 を読んだことがありますか?

英文学者の吉田健一の書いた「英国に就て」 (ちくま学芸文庫)というとても面白い英国案内を読んだ。1974年の本だが、文庫に入ったのが2015年2月でまだ新しい。ピカディリーにある日本の書店で見つけた。この本は英国の文化と自然についての優れた随筆集だ。古き良き英国の観光案内としても読み応えがある。32の随筆が収められているので興味のある部分だけ拾い読みするつもりでいたが、面白いので全部読んでしまった。印象に残った4つのエッセイについて紹介してみたい。

「英国の四季」というエッセイがある。「四月になれば英国でももう冬とは思えない日が多くなるが、それでもエリオットは例の「荒地」で、四月は残酷な月だとこぼしている。冬でもないし、はっきり春でもないからという意味らしくて、まず英国の四月はそんな感じがするものである。」 さらに英国の春がとても短いことについて、「英国では春が来ると、すぐに夏、或いは少なくとも、英国の夏になる。確実に春になるのが五月で、五月から英国では夏の最中になっている六月まではすぐである。」と書いてある。わたしは二匹の犬を連れて朝夕と散歩をするので、この雰囲気はよくわかる。

「ロンドンの公園めぐり」というエッセイも何故ロンドンには緑が多いのかを理解する上で必読だ。この中に「テエムス河の上流はすべてロンドン市民の公園になっているとも言えるので、これくらい美しい河は世界中にないという感じが少なくともする。」、「郊外の公園で有名なのの幾つかも、テエムス河の沿岸にある。」という指摘がある。キューガーデンズとリッチモンド・パークが紹介されているのがうれしい。どちらもわたしが住んでいるチズイックに近い。わたしもテムズ川とその周辺の公園の魅力に取りつかれて、散歩の風景や水鳥や植物の写真を撮るようになった。


「英国の景色」というエッセイは英文学者としての吉田氏のセンスが光る名文だ。この人は厳しい冬が終わって、初夏が訪れる五月六月の様子について次のように書いている。「。。。冬とは反対の意味でこれもやはり、人間の世界ではない気がした。余りにも豪奢で、むせ返るような活気に満ちた光景なのである。だからその頂点まで行けば、その先には、死の予感しかない。哀愁などというものではなくて、死にたくなるか、自分が地上に生きている喜びに酔いしれるか、そのどっちかなのである。」 この人はシェークスピアを例にあげて「ロミオとジュリエット」でも、十四行詩であるソネット集の中の数編でも、「蛆虫とか、土とか、骸骨とか」とても具体的な死のイメージが繰り返し出てくることを説明している。

「英国のビイル」というエッセイは「日本では夏はビイル、冬は日本酒という人が多いが、英国では冬でも夏でもビイルを飲む。」という文章で始まる「秋の昼に似たロンドンの夏の晩に(ビイルを)飲んでいる気持が今でも忘れられない。」とあるが、英国の夏の夕べのすごし易さは本当にその通りだ。この中に、小説家の堀辰雄が「狐の手袋」という随筆集を出していたことが紹介されている。この花は名前も面白いが、不思議な色と形をしている。「ジギタリス」が植物図鑑に載っている名前だ。ラテン語で指の意味があるそうだ。そこから英語では一般にfox gloveと呼ばれるようになり、これが日本語に直訳されている。美しい花なので観賞用だが、強心剤としても効果があるので薬用にも栽培されているそうだ。この花の全体に猛毒があるそうだが、夏には公園でよく見かける花だ。









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