2014年10月3日金曜日

四方田犬彦 「先生とわたし」「再会と別離」

学生時代に英書講読の授業でお世話になった由良君美先生は1990年にご逝去された。映画評論・比較文学の四方田犬彦氏が書いた「先生とわたし」(2007年)という本を読んで複雑な気持ちになった。東大の英文学の教授であり、浪漫主義、幻想文学の博識で知られた由良先生の偉大さは新潟から出てきたばかりの大学一年生には想像もつかなかったが、雰囲気のある人だった。「世界のオカルト文学幻想文学・聡解説」などの著書がある。四方田氏の回想記を読むと、二人は師弟であった以上に響き合う友人同士だった感じがする。四方田氏は記憶を辿りつつ変容したものと不変なものの両方を淡々と描く。ほろ苦い。

四方田氏は2009年の「歳月の鉛」という本の中で、由良先生について再び回想している。「驚異的な授業だった。一年生のときにほとんどすべての授業に退屈しか感じず、ほとんど出席の意欲がわかなかったわたしは、初めて自分が真剣に向き合わなければならない知の饗宴がここに開示されていることを知った。」「わたしはこの悪魔的な師匠から受けた知的恩恵に報いるために「先生とわたし」という書物を著してその冥福を祈った。」晩年の由良先生が健康問題とアルコール依存で苦しみ、二人の関係にも影響を与えたらしいことが示されている。


四方田氏は2011年に石井睦美氏と共著で「再会と別離」という往復書簡の形の本を出している。わたしはこの本を読んで四方田氏のファンになった。この往復書簡の中には石井睦美氏による恩師中村真一郎の回想も出てくる。印象に残る本だ。


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