2014年10月4日土曜日

イヴリン・ウォーの「The Loved One (「囁きの霊園」)」 が好き

英国の小説家イヴリン・ウォーの「The Loved One」は学生時代、由良君美先生の英語の授業のテキストだった。作家の小林信彦は週刊文春連載のエッセイ「本音を申せば」の中で、2013年に出た光文社古典新訳文庫の小林章夫訳「ご遺体」というタイトルへの疑問を提起している。2013年岩波文庫の中村健二・出淵博訳では「愛されたもの」(1969年版の改訳)、1970年の吉田誠一訳のタイトルは「囁きの霊園」(早川書房ブラックユーモア選集)、1978年の出口保夫訳では「華麗なる死者」(主婦の友社)と翻訳は様々だ。わたしの好みとしては「囁きの霊園」が気に入っている。

ロサンゼルスの動物葬儀屋で働くイギリス人の「おくりびと」の話なので「(神様や遺族に)愛された人」をどう訳すべきか?新訳を出した小林章夫氏は文庫の後書きで「故人を示す言葉なので、仏様というタイトルで訳されることもあるが、西洋世界でそれはいかがなものか」と苦心した様子を説明している。


英国で詩人としての将来を期待された主人公がハリウッドにやってくるが、生真面目なアメリカ娘が気になったり、ペットの葬儀屋の仕事が気に入ってみたりと何とも頼りない。誇り高い在ロサンゼルスの英国人たちは、新興国における自分たちのプライドを守るためにこのように変わった仕事をする輩には帰国の費用を出してでもいなくなってもらいたいとやきもきする。主人公も含めて登場する人物のすべてを揶揄している点ではブラックユーモアの作家として世に出たイヴリン・ウォーらしい作品だ。


この作家は代表作となった「回想のブライズヘッド」という長編を書いた時に、それまでの風刺とユーモアを愛した読者を失望させたそうだ。しみじみした味わいでとても好きな作品だ。「囁きの霊園」冒頭の場面で、ハリウッドの映画産業で長い時間を過ごした老人と若い主人公が酒を飲みながら沈む夕陽を眺めているテラスの場面が好きな読者にとっては「回想のブライズヘッド」はさほどの驚きではない。

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