2014年10月4日土曜日

イヴリン・ウォー「回想のブライズヘッド」

英国の小説家イヴリン・ウォーは大学で歴史を学んだが、勉強には実が入らず画家になろうとして美術学校に入る。それもやめると各地を転々としたと評伝にある。この本はほぼ自身の経験をベースにしているらしい。1939年に軍に入隊し、1944年にユーゴ戦線で従軍中に負傷する。長期の傷病休暇をもらって書いたのがこの本。この人は1947年にアメリカを訪問すると翌年にはハリウッドの動物葬儀屋をテーマにした「The Loved One」を書いている。けっこう自然な人というか行き当たりばったりな人のようだ。

「回想のブライズヘッド」も自伝小説なのか、恋愛小説なのか、カトリックをめぐる宗教小説なのか漠然としている。構えの大きなゆったりした小説とも言える。岩波文庫の上巻には第一部が入っている。同じく絵の勉強をしたモームの「人間の絆」を思わせるような自伝風の作品だ。


下巻の第二部では激しい恋の物語が展開する。やがて第三部で主人公とヒロインが別れる物語は、カトリックの信仰がベースとなっている。グレアム・グリーンの「情事の終わり」と共通するものがある。次のような場面が印象的だった。


「あとになって彼女が語ったところでは、わたしのことを心に留めてはいたのだという。ちょうど、或る本を探すために書棚を眺めていて別の本に目をとめ、取り出して表題のページをちらりと見ると、「暇ができたらこれを読もう」とつぶやいたきり元の場所に戻して、またさっきの本を探しにかかる、そんなふうだったのだ。わたしの方では、彼女にもっと強い関心を抱いていた。」


「あなたもわたしもひとつの類型に過ぎず、時として二人を襲うこの悲しみは、それぞれが相手を通してその向こうにちらと見えていて、いつも一歩か二歩先に角を曲がってしまうその影を必死に追い求めているのに見つけることができない、その失望に根ざしているのではないのか」


「ひとつだけ、もうすこしでしかけていたことだけど、それだけは悪いわたしにもできないことなのよ。神を相手に、神と対抗できるほどの幸せを選ぶということ。」


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